D 真空

D1 真空の基礎

はじめに

原子論的見地に立った実験において「真空」という条件は大きな役割を果たす。理工学のほとんどの分野にユーザが存在し、さまざまなニーズに応じた環境を提供してきている。そのいくつかを「D真空」の実験テーマで体験してみよう。
大気圧から減圧していくと、最初に遭遇する環境の変化は、残留気体分子の平均自由行程lが長くなってくることに起因し、扱う空間の特性寸法(たとえば真空容器の内径や配管の内径)D に比べてはるかに長くなる、すなわち
   λ >> D (D1.1)
となることによって生じる(参考書[D1-2] p.23参照)。減圧していく場合だけでなく、たとえば新材料の開発などで容器を超高真空に排気した後、ガスを導入する場合にも重要な概念である。

(D1 真空の基礎 の実験装置)

(i) λ << D か (ii) λ >> D で気体の性質には本質的な相違が生ずる。 (i) の条件では気体は連続流体として扱われ、 (ii) の条件では気体分子は粒子として扱われる。 例えば気体の熱伝導率は、(i) の条件下では圧力に無関係に一定であるが、(ii) の条件下では圧力に比例する(魔法瓶を真空にする理由)。 この違いは気体分子の運動を規定するものが、前者においては分子−分子衝突であるのに対して、後者においては分子−器壁衝突であることによる。 そこで、 λ << D を粘性流(または ポアズイユ流)条件、 λ >> D を分子流(または クヌートセン流)条件と呼ぶことにする。本実験では円筒管を流れる気体の流れ易さ(コンダクタンスという)が粘性流領域と分子流領域で異なることを実測によって、定量的に確かめることを主な目的としている。
そのためには、真空排気ポンプの運転と圧力計測に関する知識が必要であり、「流量計測」がどのように工夫されて行われるかを理解しなくてはならない。

参考書

[0-0] 金原寿郎編 : 『基礎物理学』(上、下)(裳華房,1980)
§16にある程度の気体分子運動論の知識をもつことが必要である。 特に平均自由行程の概念を理解してほしい。 また §20.10 でピラニ真空計、§23.1 で油回転ポンプについての知識を得ておくと実験に都合がよい。
[D1-1] 熊谷寛夫、富永五郎編著 : 物理学選書 11,『真空の物理と応用』(裳華房,1970)
前半において真空技術に関する原理的なこと、真空中におこる現象の物理的把握に力がそそがれ、後半では技術的側面から真空をとらえている。
[D1-2] 富永五郎、辻 泰著 : 真空技術講座 1,『真空工学の基礎』(日刊工業新聞社,1969)
ここでは、文字通り、真空工学の基礎が非常にわかりやすく解説されている。 気体の分子運動や、コンダクタンスの概念を知るのに適している。
[D1-3]中山勝矢著:新版 真空技術実務読本 (オーム社)☆
最近の真空技術全般を実用的に書いてある。
[D1-4] 堀越源一著 : 『真空技術』(東京大学出版会,1984)
真空技術全般の入門書であり、実用性も高い。
[D1-5] 今井功 著 : 『流体力学』(上)(裳華房)☆
流体力学を学ぶ上では必携。理解に必要な数式も丁寧に書かれている。

応用物理学実験
応用物理学実験/テーマ目次


experiment@exp.t.u-tokyo.ac.jp